「エゾリスは絶滅危惧種なの?」
そう感じた方もいるかもしれません。北海道で比較的よく見かけるこの愛らしい動物が、将来的に姿を消してしまうかもしれない――そんな危機感が、今、少しずつ広がっています。
実はエゾリスは、環境省のレッドリストで「準絶滅危惧種」に指定されている野生動物です。
「なぜエゾリスが絶滅危惧種の対象になるのか」「生息数の推移はどうなっているのか」「今のうちに私たちにできることはあるのか」――この記事では、そんな疑問に丁寧にお答えします。
自然林の減少、天敵との関係、人との距離感、そして誤解されがちな「エゾリスはなつく?」という話題まで。
生態から現状、保護への取り組みまでをわかりやすくまとめました。
エゾリスの未来を守るために、知っておきたい「15のポイント」もご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
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エゾリスが「準絶滅危惧種」に指定されている理由
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自然環境の変化がエゾリスの暮らしに与える影響
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エゾリスの生態や子育ての特徴
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個人にもできるエゾリス保護の具体的な取り組み
エゾリスは絶滅危惧種?現状を解説

エゾリスはなぜ絶滅危惧とされるのか

エゾリスは、北海道に広く生息しているにもかかわらず、「準絶滅危惧種」として位置づけられています。
それは、将来的に絶滅するおそれがあると見なされる状況にあるからです。
本来、エゾリスはハルニレやイタヤカエデ、オニグルミなどの実がなる自然林に多く生息しています。特に、木の幹に空いた樹洞や木の叉に作った巣で子育てをするため、そうした環境が不可欠なのです。
しかし近年、森林伐採や都市の開発が進み、エゾリスがすみかとする自然林が減少しています。カラマツなどの人工林では、必要な食料や巣の材料が得にくいため、個体数が減る傾向にあります。
また、天敵の存在も見逃せません。エゾフクロウやキタキツネのような肉食動物に加え、人間の暮らしに近い場所ではカラスも警戒すべき存在です。特に春の子育ての時期には、子リスが狙われやすくなっています。
さらに、森林が減ったことでエゾリスと人との距離が近づき、道路に出てしまい交通事故に遭うケースも増えているのです。
こうした様々な要因が重なり、「今はまだ多く見られても、将来的には減少するおそれがある」という理由から、エゾリスは準絶滅危惧種とされています。
以下に主な理由をまとめた表をご覧ください。
項目 | 内容 |
---|---|
生息地の減少 | 森林伐採や都市開発で自然林が少なくなっている |
食料の減少 | 実のなる木や芽の採取が難しい人工林の増加 |
天敵の存在 | キタキツネやカラス、フクロウによる捕食リスク |
人との接触 | 道路への出現などで事故の危険が高まっている |
分類の背景 | 将来の絶滅リスクが高いため、準絶滅危惧種に指定 |
エゾリスの生息数とその推移
エゾリスは、北海道全域にわたって広く分布している野生動物です。
特に、落葉広葉樹が豊かに残っている地域では、比較的よくその姿が見られます。
ですが、正確な個体数は調査が難しく、「減っている地域」と「安定している地域」が混在している」のが実情です。
例えば、旭川市近郊の嵐山のように自然環境が残された場所では、3種のリス(エゾリス・エゾシマリス・エゾモモンガ)がそろって観察されており、生息状況は比較的良好です。
一方、都市部や郊外で森林が減ってきている地域では、「最近はまったく見かけなくなった」という声も多く聞かれます。
エゾリスの行動範囲は広く、季節によっても変化します。春から夏には若葉や実を求めて活発に動き、秋にはオニグルミや木の実を蓄える行動が見られます。ただ、冬になると活動時間が短くなり、餌を探す効率も下がります。このように、季節ごとの自然条件にも大きく左右されやすいのがエゾリスの特徴です。
現在は、道内各地で給餌活動やモニタリング調査が行われており、それが生息環境の維持に役立っています。ただし、すべての地域で対策が行き届いているわけではないため、生息数の推移には注意が必要です。
下記に、生息数に関するポイントを整理しました。
項目 | 内容 |
---|---|
全体の分布 | 北海道全域に生息。自然林が多い地域に集中 |
地域差の存在 | 森林のある地域では多く、都市近郊では減少傾向 |
季節変動 | 冬は活動が制限されるため、見かけにくくなる |
保護活動の効果 | 調査や給餌などによって一部で生息が安定 |
分類の理由 | 将来的な個体数減少の懸念から準絶滅危惧に |
準絶滅危惧種とは何を意味するのか

準絶滅危惧種(じゅんぜつめつきぐしゅ)とは、「現時点では絶滅の危険性は高くないものの、今後の環境変化などによって絶滅に向かう可能性がある生き物」を指します。
この区分は、環境省や地方自治体が生物多様性の保全のために定めている「レッドリスト」によって分類されています。
たとえば、エゾリスのように北海道に広く分布している種でも、森林の減少や都市開発、気候変動などが進むと、将来的に数が急激に減ってしまうことがあります。
このようなリスクを抱えている生き物が、準絶滅危惧種として登録されるのです。
つまり、「今はまだたくさんいるように見えても、油断はできない」という状態なのです。
準絶滅危惧種に指定されることで、その動物が暮らす環境の保全や、調査・モニタリングが優先的に行われるようになります。
エゾリスも、こうした対象のひとつです。
以下の表に、準絶滅危惧種についての要点をまとめました。
項目 | 内容 |
---|---|
意味 | 絶滅の危険性はまだ高くないが、将来的に絶滅の可能性がある |
対象となる動物 | 現在は広く見られるが、環境変化に弱い種 |
目的 | 生息環境の変化に早めに気づき、保全活動を行うため |
エゾリスの現状 | 森林伐採や人との接触の増加により、将来のリスクが高まっている |
このように、「準絶滅危惧」という区分は、未来に向けた“警告”のようなものでもあります。
今ある自然を守ることが、生き物たちの未来を守ることにもつながるのです。
エゾリスがなつくと誤解されやすい理由

エゾリスはとてもかわいらしく、人のそばに姿を現すこともあるため、「なつくのでは?」と思われがちですが、実際には非常に警戒心が強い動物です。
そのため、「なついているように見える」のは、あくまで偶然距離が縮まっているだけなのです。
例えば、庭先で何度もエゾリスを見るようになったり、近くで写真が撮れたりすると、「人に慣れている」と感じるかもしれません。
しかし、それは周囲に危険がないと判断して一時的に姿を見せているだけで、基本的には人の気配や音に敏感に反応してすぐ逃げてしまう傾向があります。
また、春から夏にかけては子リスたちが巣立ちの時期を迎えるため、動きが大胆になり、無防備に見えることもあります。
この時期の姿を見て「人に慣れている」と思ってしまうのは、よくある誤解です。
以下の表に、エゾリスが「なついているように見える」状況と、その本当の意味をまとめました。
状況 | 誤解しやすいポイント | 実際の行動の意味 |
---|---|---|
何度も庭に現れる | 人に慣れている? | 餌が豊富で安全と感じているだけ |
近距離で撮影できる | なついている? | 危険がないと一時的に判断しているだけ |
子リスが人前に出てくる | かわいくて人懐こい? | 巣立ち直後で警戒心が弱いだけ |
声をかけても逃げない | 理解している? | 単に動かずに様子をうかがっている |
エゾリスは「なつく動物」ではなく、「環境に応じて行動を変える野生動物」です。
その繊細な性質を理解し、そっと見守ることが大切です。
エゾリスを絶滅から守るために私たちができること

絶滅の原因と森林環境の変化

エゾリスの暮らしにとって、森林の存在は欠かせないものです。
しかし、近年の開発や気候変動によってその環境が少しずつ失われつつあります。
これが、エゾリスが「準絶滅危惧種」とされる背景のひとつです。
特に北海道では、昔から親しまれてきた自然林が、農地や住宅地、またカラマツなどの人工林に置き換えられることが増えています。
自然林と人工林では、エゾリスにとっての「暮らしやすさ」に大きな差があります。
エサになるドングリやクルミが実る木が減ったり、巣を作るのに適した樹洞のある木が少なくなったりしているのです。
さらに、木の伐採によって木々の間隔が広がり、エゾリスが木から木へと飛び移ることも難しくなっています。
その結果、外敵に見つかりやすくなるだけでなく、エサ場への移動すらままならなくなってしまうのです。
次の表は、エゾリスに影響を与えている環境の変化とその具体例です。
環境の変化 | 内容 | エゾリスへの影響 |
---|---|---|
自然林の減少 | 開発・伐採による | 巣やエサ場が減る |
人工林の増加 | カラマツなどの単一植林 | 食物多様性の低下 |
森林の分断化 | 道路・宅地の拡大 | 木間の移動が困難に |
気候変動 | 実の付き方の変化 | 食料の不安定化 |
エゾリスの生息環境が少しずつ変わっていることに、気づかれにくいのがこの問題の難しさです。
「いつの間にか姿を見かけなくなった」――そうならないために、今、自然との関わり方を見直すことが求められています。
エゾリスの子育てと繁殖サイクル
エゾリスの繁殖は、まだ雪が残る3月ごろから始まります。
この時期、メスのもとには複数のオスが集まり、追いかけるようにして求愛行動が行われます。
繁殖に関わるのはオスはここまでで、その後の子育てはすべてメスがひとりで担います。
メスは巣材として苔や木の皮、小枝などを集め、木のうろ(樹洞)や枝のまたに球状の巣を作ります。
この巣は外敵から身を守り、赤ちゃんリスが安全に成長するための大切な場所です。
赤ちゃんリスは約38日の妊娠期間を経て誕生し、はじめは毛もなく目も閉じたままです。
生後5週ほどでふわふわの毛に包まれ、巣の外に顔を出すようになります。
2ヶ月を過ぎると行動範囲が広がり、若葉や実を食べながら外の世界に慣れていきます。
特に印象的なのは「巣の引っ越し」です。
母リスは成長段階に応じて、子リスを1匹ずつ運びながら何度も巣を替えます。
そして全ての子を運び終えた後、最後に“空っぽの巣”にももう一度戻るという行動をとることが観察されています。
まるで、すべての子が無事かどうかを確認するような、細やかな母の本能が垣間見えます。
以下の表に、エゾリスの繁殖と子育ての流れをまとめました。
時期 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
3月 | 交尾期 | 雌をめぐる争いが活発に |
4月上旬 | 出産 | 妊娠期間は約38日 |
5〜6月 | 巣内で成長 | 生後5週で毛が生え外を見るように |
6〜7月 | 巣外活動 | 巣の周囲で遊び始める |
夏 | 巣の引っ越し | 複数回行い、母リスがすべて対応 |
このように、エゾリスの子育てには緻密で献身的な営みがあります。
豊かな自然の中で静かに行われている命のドラマを、そっと見守ることもまた、私たちにできる保護の一歩と言えるのではないでしょうか。
保護活動と北海道の支援策

エゾリスの暮らしを守るため、北海道では行政と地域の人々が連携して保護活動を進めています。
豊かな自然に恵まれた北海道は、多くの野生動物たちの命を育む大切な場所です。その一方で、絶滅の危機にある種も少なくありません。
中でもエゾリスは、森林伐採や都市化によって住みかとなる自然林が減少し、繁殖や食料確保に影響を受けています。
そのため、道内ではいくつかの支援策が実施されています。
具体的には、モニタリング調査や啓発活動を通じて、生息状況や環境の変化を把握し、必要に応じて保全策が講じられています。また、レッドリストの見直しや外来種対策も進められており、より的確な対応が取られるようになってきました。
さらに、北海道は「ふるさと納税型クラウドファンディング」により、道民だけでなく全国から寄附を募り、保護活動の費用に充てています。タンチョウの給餌活動などがその一例ですが、同様の支援がエゾリスのような哺乳類にも広がる期待が高まっています。
以下の表は、現在行われている主な保護活動の概要です。
支援策の種類 | 内容 | 特徴・目的 |
---|---|---|
モニタリング調査 | 生息域・個体数・行動の定期的な記録 | 絶滅のリスクをいち早く把握する |
啓発活動 | 地域や観光客への情報発信 | 生態への理解を深め、共存を促進 |
ふるさと納税型CF | 自然保護のための資金を募集 | 個人も手軽に参加できる仕組み |
高山植物パトロール | 生息環境の監視と保護 | 違法採取や荒廃の防止につながる |
エゾリスの未来を守るためには、地域全体で支え合う意識が不可欠です。
このような支援策を通じて、自然と人との良い関係が少しずつ築かれ始めています。
北海道の生物多様性への取り組みについてはこちらを参照ください
私たちができる自然保全の取り組み
自然を守る行動は、特別な立場の人だけにできることではありません。
日常の中で、私たち一人ひとりにもできることがたくさんあります。
例えば、野生動物を見かけたときには距離をとって静かに観察するように心がけましょう。写真を撮りたくても、近づきすぎると巣作りや子育ての妨げになることがあります。特に春から初夏は、エゾリスの子育てが盛んな季節です。
また、公園や自然歩道ではごみを持ち帰る、植物を採らないなど、基本的な自然マナーを守ることも大切です。
こうした行動が、間接的に野生動物の住みかを守ることにつながります。
情報の選び方にも気をつけたいところです。
SNSでは誤った情報が拡散されることもありますが、道庁の環境部門や自治体、博物館などの公式発信を確認することで、正しい知識が得られます。
また、保全活動を行う団体やプロジェクトへの小さな寄附やボランティア参加も、誰かの支えになっているかもしれません。
以下の表に、身近でできる自然保全の行動をまとめました。
行動内容 | できること | ポイント |
---|---|---|
野生動物との距離を保つ | 静かに見守る・エサを与えない | 子育てや繁殖を妨げない |
森林でのマナー | ごみを持ち帰る・植生に配慮 | 生息地を荒らさない配慮 |
正しい情報の確認 | 信頼できる公的機関を参考にする | 誤情報に惑わされない |
支援活動に参加 | 寄附・保全団体の応援など | 自分のペースで関わる |
エゾリスのように身近な存在だった動物が、遠い存在になってしまう前に、私たちができることを始めてみませんか?
自然保護は、大きな行動だけでなく、小さな優しさの積み重ねでできています。
たとえ今日できることがひとつだけでも、それは未来の森を守る一歩になります。
そしてその一歩が、エゾリスやその子どもたちの命をつなぐ道になるのです。
このブログをきっかけに、あなたの中にも小さな自然への関心が芽生えたなら、とても嬉しく思います。
どうかこれからも、北海道の森とその生き物たちのことを、心の片隅に置いていただけたら幸いです。
エゾリスは絶滅危惧種?5つの理由と現状を解説を総括
エゾリスの現状や生態について、ここまでさまざまな角度からご紹介してきました。
見た目の可愛らしさとは裏腹に、彼らの暮らしには繊細なバランスと厳しい自然の現実が存在します。
人との距離が近いように感じられる場面もありますが、本来は野生の中で生きる、慎重で用心深い動物です。
この章では、記事全体のポイントをわかりやすく整理しながら、エゾリスが直面している課題と、私たちが知っておくべき重要な情報をまとめました。
これを通じて、エゾリスへの理解がより深まり、自然との向き合い方を見直すきっかけとなれば幸いです。
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エゾリスは北海道全域に生息している
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現在は「準絶滅危惧種」に分類されている
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自然林の減少が主な生息地の減少につながっている
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人工林では食料や巣材が不足しやすい
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天敵はキタキツネやフクロウ、カラスなどがいる
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道路に出て交通事故に遭うケースもある
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子育ては春から夏にかけて行われる
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メスが1匹で巣作りと育児を担っている
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繁殖期には複数回の「巣の引っ越し」が見られる
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地域によって生息数に差がある
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自然が豊かな地域では比較的安定している
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季節により行動範囲や活動時間が変化する
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「人になついているように見える」のは誤解である
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北海道ではモニタリングや啓発活動が進んでいる
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今後の環境変化によって絶滅の可能性があると見なされている